グローバルランゲージ(地球語)としての平和会議記録と補遺

将来の社会にDVを持ち込まない大学生の学びと行動(第2部)



4.日本でのDV防止対策の歩み


4.1 歴史的変遷

1970年代半ば 「東京都女性相談センター」が開設される
1980年代 セクシャル・ハラスメント運動はじまる
1992 「夫からの暴力調査研究会」(DV調査研究会)による実態調査がなされる
1993 国連「暴力撤廃宣言」;女性に対する3つの暴力を定義する
1995 第4回世界女性会議(北京会議)、北京宣言・北京綱領採択される
1996 「男女共同参画二〇〇〇年プラン」;日本の国内行動計画
1997 6月 内閣総理大臣が男女共同参画審議会に対し、基本方策について諮問
女性に対する「暴力部会」が設置される
東京都が初の公式調査である「女性に対する暴力に関する調査」結果を公表した
1998 10月 「男女共同参画審議会女性に対する暴力部会の中間取りまとめ」公表
1999 5月 答申「女性に対する暴力のない社会を目指して」
1999 9〜10月 総理府「男女間における暴力に関する調査」
2000 2月 上記調査結果発表
2000 4月 「女性に対する暴力に関する方策についての中間取りまとめ」公表される
2000 7月 答申「女性に対する暴力に関する基本方策について」
2001 4月6日 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」可決
2001 10月13日 同法施行
2002 4月1日 同法第2章、第6条、第7条、第9条施行 
2002 8月6日 男女共同参画推進部「平成14年度『女性に対する暴力をなくす運動』
「実施要綱」を発表した

[ p. 102 ]

4.2 日本のDV防止法(2001年10月施行)

第四章 保護命令

(保護命令)

第十条 被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申し立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、次の各号に掲げる事項を命ずるものとする。ただし、第二号に掲げる事項については、申し立ての時において被害者及び当該配偶者が生活の本拠を共にする場合に限る。
一 命令の効力が生じた日から起算して六月間、被害者の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この号において同じ。)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいすることを禁止すること。 二 命令の効力が生じた日から起算して二週間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること。(管轄裁判所)

第六章 罰則

第二十九条 保護命令に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 第三十条 第十二条第一項の規定により記載すべき事項について虚偽の記載のある申し立て書により保護命令の申し立てをした者は、十万円以下の過料に処する。

動き始めたばかりの日本のDV防止法は、今後検討されなければならない多く課題を抱えている。たとえばこの法律には、恋人間の暴力はふくまれないこと、退去の申立ては1度しか出来ないこと、電話までは禁止されないこと、「保護命令」が身体的暴力に限られていること、「保護命令」は子供や離婚後の被害者は対象外であること、暴力の証拠保全や公証人の認証を求めた保護命令申し立てが煩雑であること、地域格差が広がり得ること、未然防止・早期対応がないこと、支援センターの場所が加害者にわかり易いこと、市町村が独自に設置している相談窓口の役割が曖昧なこと、都道府県の支援センターや警察だけでの処理は非現実的であること(実際筆者が終日、京都府の支援センターに電話を試みてみたが、常に話中か、担当者不在であった)、相談員の専門性を高めることと人数確保の問題、加害者対策の遅れがあること、避難施設が不足していること等である。

5. 非暴力プログラム


5.1 アメリカでの例


カリフォルニア州では逮捕されたDV加害者は、52週の加害者プログラムを受講することが、州法で定められている。男女のファシリテーター(グループの方向性を示す人)によるグループで参加者たちは、暴力とは何かということをはじめ、刷り込まれた男らしさについて、自分の暴力的態度について、自分の気持ちについて、気持ちを表す方法について、怒りをコントロールする方法について、などさまざまなことを学ぶ。参加者たちは、自分の気持ちをグループで語り、ほかの人の話を聞き、体験や痛みを共有することで、お互いに心を開き、助け合えるようになっていく。
被害者にさまざまな援助の手をさしのべることが必要であることはいうまでもないが、女性とのリレーションシップに失敗し、自分の暴力的態度に気づかず、また暴力的な関係をくりかえす加害者たちを変えないかぎり、被害は減らないし暴力はなくならない。カリフォルニア州サンフランシスコ周辺で15年前から活動している「マンアライブ」というプログラムをみてみよう。同じ悩みを抱える男性同士が集まり、集団の力(グループ・ダイナミックス)を最大限引き出すことでDVを乗り越えようとする自助グループ活動である。プログラムは二つのパートに分かれている。

[ p. 103 ]

PART I  自分の暴力克服

	1. 私は暴力を止める。
	   まず自分の暴力に気づき、パートナーへの行動に責任を持つことを語り合う。
	2. コミュニケーションの仕方を学ぶ。(相手を批判したり、自分を偽ったりしない。)
	   肯定的な自己表現を役割練習(ロールプレイ)を通して学び、コミュニケーション・スキルを身につける。
	3. 責任ある親密さの回復。
	   感謝、悲しみ、怒り、嬉しさ等の感情を具体的な場面設定の中で表現する練習をする。

PART II  コミュニティーへの還元

	4.ホットラインへの電話受け取り手として活動する。
	5.DV加害者教室でのプログラム進行を補佐する。
	6.高校や刑務所に出かけて体験を語ったり、DV関連の集まりで話したりする。
	  プログラムはそれぞれの段階が16週間、1回3時間という長期にわたる。
「暴力なしで暮らす方法を学ぶためのハンドブック」(Learning to live without violence- A handbook for men, Volcano, 1989)は実際アメリカで多くの非暴力プログラムで使われているテキストであるが、暴力を回避する技術としてタイムアウトと呼ばれる興味ぶかい戦略が紹介されている。むかついたり、爆発して切れそうになったりしたら自分自身やパートナーに「タイムアウト」と宣言する。そして散歩やジョギングなど体を動かすために家から出、(その間お酒や車の運転は禁物)1時間ぐらいたって帰宅しパートナーに話し合う気があればお互いの気持ちを言い合う。もし話し合う気がなければ又の機会に譲る。

5.2 イスラエルでの例


イスラエルにはDV加害者の男性のための生活共同体ベイト・ノアム(やさしい家)がある。DVは男性の問題なのだから、その男性を家庭から出し、家の外で共同生活をさせることで徹底的に男性の暴力的態度や行動を改めさせる場所がベイト・ノアムである。アメリカでもヨーロッパでも、ここ30年被害者救済に取り組み、女性や子どもたちのためのシェルターをたくさん作った。しかしDVは一向に減少していない。「なぜ被害者の女性たちが家を出て逃げ回らなければならないのか」というベイト・ノアムの出発点はほかの国でも大いに参考に出来る。出遅れた日本では民間シェルターに公的支援をする方向(配偶者暴力防止法第26条)で動き始めたばかりだが、それと同時に加害者への罰則及び公正の義務を厳しく規定し、「変わらなければ家におれないのは暴力をふるう者のほうだ。」という社会的常識・規範を作ることが必要だと山口(2001)は主張している。ベイト・ノアムでは20代から70代までの男性12人が4ヶ月間共同生活をし、男性はそこから通勤し、妻や子どもに送金する。家事一切を共同で行い、通勤以外の外出は許可されず、毎晩暴力のサイクルを打ち破るためのグループ活動に参加する。4ヶ月の共同生活後、家に帰った男性たちは3年間妻たちから評価され、レポートされるシステムになっている。ベイト・ノアムの効果は大きいことが報告されている。 

5.3 日本での例


1999年 5〜6月 「男の非暴力グループワーク」が結成され、2001年 7月には「日本DV加害者プログラム協会(JABIP)」が発足した。JABIP は「暴力のサイクル」を絶つための防止プログラム、BTC-ブレイキング ザ サイクル プログラムを開発している。米国カリフォルニア州での実践例を応用した支援プログラムである。
以下は非暴力グループワークの内容である。
 男のための非暴力グループワーク(週に1回、6週間のプログラム)
 各回のテーマ
 第1回 出会いのグループワーク−お互いを知る、自分を知る
 第2回 感情を伝える(その1)−自分の感情を知る
 第3回 感情を伝える(その2)−感情を言葉で表す
 第4回 感情を伝える(その3)−見方を変える
 第5回 行動を変える−暴力を振るわずに暮らす
 第6回 新しい自分へー豊かなコミュニケーション能力を養う

[ p. 104 ]

まず、初めての男性同士が、話し合いながらグループを形成していく。毎回、同じように感情を表す言葉を聞き合い、1週間に暴力があったのかどうかの反省を行い、怒りの感情に焦点をあわせて自己を語る。そのきっかけとなる多様なワークを取り入れながら進行する。そして、「エゴグラム」(自分の性格特性を知るための質問に答えていく検査の道具)を使い、自己分析を行う。また、夫婦の会話を想定して、暴力にいたるようなコミュニケーションとそれを回避するような練習を行う。「アサーション・トレーニング」である。気持ちを語り合う「やりとり」のコミュニケーションを習得する。
それぞれのワークは単純な行動であるが、男の非暴力ということに焦点を合わせて相互に関連がつけられているので、参加者は日常生活の中に自己を見出し、暴力の体験を客観的に見つめなおす。

6.外大生――将来の社会にDVを持ち込まない学習と行動


テキストはDVの中でも精神的虐待に焦点を当てたMary Susan Miller著「No Visible Wounds」 1996年Fawcett Columbine発行を使用し、日常の授業はContent-based型の原書読解授業である。適宜、新聞記事や巻末にあげる参考図書などをハンドアウトで配布した。以下のようなビデオやWEBも参考にした。 ビデオ:
"Sleeping with the Enemy"
"What's love got to do with it"
「ドメスティック・バイオレンスにどう取り組むか」―親指のルールを打ち破って―内閣府が出しているビデオ
WEBサイト:
内閣府の男女共同参画局  www.gender.go.jp/
なづな(女綱) 〜ストップDVとやま〜  www.geocities.co.jp/HeartLand-Suzuran/3062/
メンズセンター  member.nifty.ne.jp/yeswhome/MensCenter/
外大生実態調査

2001年9月から2002年10月にかけて関西外大生227人(男子21人・女子206人)に任意調査した。(表1参照)表1

 質問 男  21 人 女 206人 合計 227人	
1. ドメスティック・バイオレンス(以下DV)という言葉を聞いたことがありますか。 yes 19 no 2 yes191 no15	210 17 92.5%  7.5%
2.自分の身近にDVにあっている人がいますか。 yes  6 no   15 yes  41 no  165 47 180 20.7% 79.3%
3.将来自分にDVの可能性があると思いますか。 yes 1 no 20 ?0 yes 30 no 165 ?11 31 185 11 13.7% 81.5% 4.8%
4.DVの被害者である女性にも非があると思いますか。 yes 11 no 9 ?1 yes 73 no 126 ? 7 84 135 8 37.0% 59.4% 3.5%
全体の20.7%にあたる47人(男6人、女子41人)が自分の身近にDVにあっている人がいると回答した。その内わけは、自分4人、友人25人、親6人、先輩や親戚の人、知人が12人であった。この数字から恋人間の暴力が若者の間にも蔓延していることは否定出来ない。「将来自分にDVの可能性があると思うか。」という質問に対して「ある」と答えたものが13.7%、「ない」81.5%、「わからない」 4.8%であった。「DVの被害者である女性の側にも非があると思うか。」に対しては「思う」が37.0%、「思わない」が59.4%であった。自分の母親が父親からDVを受けているのを見てきた学生6人中5人が「思わない」と回答している。1学期間DVに関する授業を受けた学生に最終のアンケートをとったところ、ほぼ全員が「思わない」と回答している。
次にDVに関する授業ポートフォリオのリフレクションが如実に表わしていた学生のDVに対する意識の変化を原文のまま紹介してみたい。学習する前はDV被害女性に対し「かわいそう」「情けない」「弱い」「悪い点もある」と感じていた学生達だが、授業が進んでいくにつれ学生達の意識に変化が現れ「悪くない」「がんばっている」「逃げなさい」に変わっていった。DV加害男性に対しては「怖い」「腹立たしい」「最低」「許せない」が授業前、授業後も圧倒的に多かった。学習後は「弱い」「かわいそう」という反応もあった。 本学は外国語大学ということもあり外国文化、とりわけアメリカ文化に憧憬を抱いている学生が多い。DVの実態を学習する中で「これまでアメリカ人男性は優しい、というイメージを持っていたので15秒に1件の割合でDVに関わる事件が発生し、年間200万人以上の女性がDVで深刻な被害を受けていると知り、驚いた。そしてがっかりした。」「これまで私はアメリカについて良いイメージばかりで悪いところを見なかったと思う。」「アメリカはレディー・ファーストで女性に対して優しいとおもっていた。」という感想が少なからずあったことからもそれが伺える。学習するにつれ、DVは国や民族を問わず、学歴や経済状態も問わず、多くのカップルの間で起きている問題であることを学生達は知る。

[ p. 105 ]


今回、この授業をとって初めてドメスティック・バイオレンスを知りました。今でも覚えているのははじめての授業で先生にこのことについて説明を受けた時の驚きです。私たちの身近なこの日常でこんなとんでもないことが起こっている、という衝撃を受けました。又自分がいかに無知だったかというのを思い知らされました。この授業を受けるまで私は社会で起こっている問題がどうなのか、とかそんな大して興味も持ちませんでした。でもだんだんDVについて知っていくうちに、ドラマなどで女性が虐待を受けているのを見たりすると、じっと見入ってしまうこともありました。私は授業で学んだことを思い出し、家族や友人に度々説明したりしていました。DVだけにかかわらず、日本や世界で起きている問題にも目を向けるようになった、というのも事実です。
まだこの授業をとっていなかった一回生の頃、バスに乗っていると老夫婦が乗ってきました。そしてお婆さんの方がバスの整理券を無くしてしまったらしく、探し始めました。するとお爺さんの方も一緒に探してあげればいいのに、お爺さんはびっくりするくらいの大声でお婆さんを怒鳴りつけ、「おまえは何をしてるんゃ。いつもそうやないか。しっかりしろ。」などと、ものすごくバカにしたようにどなっていました。もちろんバスに乗っている人全員が注目していました。お婆さんはすごく恥ずかしそうにうつむいて泣きそうになっているようでした。私はこの光景を見たときはDVかな?なんて考えもしませんでした。なんて性格の悪い人だと思っただけでした。でも今考えるとDVであったように思います。
私の友達にもDVを受けていた子がいます。それはこの本やビデオに出てくる程激しいものではないけれど、その子が抑え付けられていたことはことは確かです。その子は別に男に流されるタイプの子ではなく、どちらかといえば自分をしっかりと持ち、嫌なことはいや!というタイプです。でもその彼氏が最初はすごく優しかったのに付き合い始めると手を出すタイプで、その子は「嫌なことがあっても怖くていえない。」といつも言っていました。今は無事別れてもうその人と全然つながりを持っていません。でも私は相談を受けてた時に「別れや!!」というしか出来なかったこと、何も行動を起こせなかったことを悔やんでいます。
私の周りにもDV被害者がいます。私の友人です。彼女は身体的な暴力を受けています。私達が見ても分るくらいの傷をつけています。彼女に[そんなことする人なら別れたたほうがいい。」と言うとやはり彼女は「私が悪いからなぐられる。自分が悪い。」と言い張ります。それ以上のことを言っても自分が悪いからとしか言いません。彼女も幼い頃、母親に父が暴力をふるう光景を見てきたと言っています。私はなんて言ってあげればいいかい今だに分りません。
授業を受けている途中で友達から「一緒に住んでいる人から暴力を受けている。」と言う相談をうけました。昔の私だったら同情することや、逆に彼女を傷つけるようなことを言っていたかも知れません。でも学んだばっかりの知識でも彼女は少し楽になってくれたみたいで嬉しかったです、でも本にあった通り、「いつも家を出ようと思うけど出られない。」と言っていて、授業で学んだ例を出して話しをしたら、時間はかかりましたが、この前、家を出たと聞きました。自分の事のように安心しました。
まず、DVに関しての知識が増えたことと、DVに対しての見方が変わったことがこの授業で学んだことです。DVは全く自分には関係ないと思っていましたが、将来結婚してDVにあう可能性が無いとはいえません。最初は将来が恐いなと思っていたけれど、DVについて学んでいくうちに、仕組みや対処の仕方を知り、心が大分軽くなりました。自分がDVを受けた場合、DVを受けている人への接し方、加害者の考え方、DV関係の法律や相談所など幅広く学べたことは、これから先にも家族や友人に伝えていかなくてはいけないと思います。被害者の女性には特性があるのではなく、気の弱い女性が受けやすいというわけでもないことは必ず頭に入れておかないといけません。

行動

学期の終わりに「自分で調べたいアメリカ社会の実態」という課題でプレゼンテーション及びレポートを課したところ、数人が更にDVについて深め、日本のDV防止法の弱点を発表した。発表者達はDV防止法の付則第三条「この法律の規定については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」に着目し、クラス全体で行動を起こすことを提案した。そして2002年1月、次のページにあげる声明文を内閣府男女共同参画推進本部に送ることになった。

[ p. 106 ]



関係各位

2002年1月


私たちは関西外国語大学2年の学生です。アメリカ社会のクラスでMary Susan Miller著『見えない傷』を読み、DV(ドメスティック・バイオレンス)について学びました。そこで妻・恋人への精神的暴力は身体的暴力以上に女性の生きる力を剥ぎ取る、ということを知りました。アメリカでは30年前からDV対策がとられ、2000以上のシェルターや24時間体制のホットライン、加害者向けの更正プログラムや自助グループが数多くあります。お隣の韓国でも1997年にDV法が制定されました。
DVは誰もが被害者・加害者になる可能性があります。そこで私たちはDVの原因は被害者・加害者の心理にあると考え調べてみました。調べるにつれ日本でも昨年の10月から施行され、注目されているDV防止法に疑問を感じ始めました。
まず一つ目は、DV防止法では身体的暴力だけに焦点が当てられ、精神的暴力が対象となっていないという事です。目に見える傷を持つ女性だけがDVの被害者ではなく、多くの目に見えない傷を持った女性もDVによって苦しんでいます。
そして、二つ目は加害者に更正プログラムの受講義務がないという事です。保護命令が出されたとしても、被害者が保護されている間何も変わっていない加害者が、その後また被害者に接近して危害を加えるおそれがあるため、被害者の多くは保護されている間、「接近禁止や退去命令の期間が終われば、これまで以上にひどい暴力が待ち受けているのではないだろうか。」という心理的恐怖とともに過ごす事になります。だから、私たちは加害者更正プログラムの受講義務をDV防止法に加え、被害者の不安を軽減するべきであると思います。ここで私たちが何より言いたいのは、DV防止法は加害者を攻撃するものであってはならない、ということです。児童虐待と同様にDVは親から子へと連鎖し、アメリカではDVを見て育った男の子の半数が加害者に、女の子の半数が被害者になる、との研究報告もあり、子供への影響が深刻視されています。つまり加害者もDVの犠牲者なのです。だから私たちはDVを根絶するためには被害者だけでなく、暴力を振るう加害者への心のケアも必要不可欠であると思います。 私たちのほとんどは現在20歳でこれから恋愛や結婚を経験しますが、このクラスで学んだ事を深く心に留め、もし自分がDVの被害者になったときは適切に判断し、身近でDVに苦しむ人がいたら積極的に力になりたいと思います。同時に行政サイドでもDV防止法に精神的暴力も対象に入れること、加害者の更正プログラム履修を義務づける事の2点を検討されることを強く要望します。


関西外国語大学 村田美子助教授担当 アメリカ社会受講者一同


その後の動きとして2002年4月内閣府は精神的暴力に関して有識者にアンケートを取った。関連記事を日本経済新聞から紹介する。

夫婦間暴力、「心の被害救済を」 6割・内閣府、防止法で有識者調査


昨年10月施行のドメスティック・バイオレンス(DV=配偶者・パートナーによる暴力)防止法について、有識者の7割が啓発活動など政府の取り組みが「不十分」と考え、救済対象に「言葉などによる精神的暴力も含めるべきだ」との意見が6割に上ることが27日、内閣府がまとめたアンケート調査で分った。調査では、3年後をめどに予定しているDV防止法見直しの参考とするため、今年1月末から1ヶ月間、全国の各界の有識者5000人を対象に実施。回収率は58.4%だった。
アンケート結果によると、DV法の周知度は「内容を知っている」が56.2%で、「名前は聞いたことがある」が36.0%。政府の研修や広報啓発の取り組みについては「不十分である」が73.2%で、「十分である」の14.8%を大きく上回った。DV防止法のどこを見直した方が良いと思うかについて複数回答で聞いたところ、「都道府県だけでなく市町村でもDV相談の支援センターの機能を果たすようにする」が62.3%で最も多く、「精神的な暴力も対象とする」が56.3%で続いた。
(2002年4月28日 日本経済新聞より)

おわりに


本学に赴任して以来、驚いたことがある。学生の多くがアメリカを美化し、アメリカ男性に憧れている点だ。英語が得意な学生が多いためかもしれない。かつて自分もそうであったか、と思いつつ、アメリカ社会の実態を少しでも的確に知らせたいという思いと、社会的弱者に対する人権問題への取り組みがアメリカでは日本より20〜30年進んでいることを知らせたい思い、これらの理由からAmerican SocietyのクラスでDVを取り扱って通算3学期を終えた。学生が書いたリフレクションを読むと、今学期もこのテーマを選んでよかったと強く思う。学生達のDVに関する知識が増えただけでなく、DVに対しての見方、アメリカ社会に対する見方が大きく変わっていった。DVがもはや自分に関係ないことではなく、エンパワーされた学生は行動を模索し、DV被害者支援を将来の仕事に結び付けたいと言う学生も現れた。自分が住む地域のDV対策の様子を調べに役所に行った学生が少なからずおり、パンフレットが沖縄からも、四国からも、滋賀県からも集められた。役所で自分達が取り組んだ学習を報告してきた学生もいる。ビデオを借りてきた学生もいる。
「DV」が2001年の流行語の一つに選ばれたようだ。言葉を軽い気持ちで使うことは強く戒めなければならないと思う。ある学生はこう述べている。「最近、日本のトレンディドラマでもDVという設定がありますが、どれも皆、軽く考えすぎです。簡単に解決されていて腹が立ちます…中途半端な理解は誤解を招く原因にしかならないことに気づいて欲しいです。」
最後に学期中、恋人からのDVに悩み命を落とした友人を持つ学生の言葉でこの報告を終わりにする。この件は大きな衝撃と戦慄をクラス全体に与えた。「友人の死や、授業、プレゼンテーション、ビデオでDVについていろんな想いを持って今まで来ましたが、今は実際自分に起こったら本当に対処できるかどうか不安に思っています。今みたいに第三者的に物事を区別できる自信がありません。この授業が終わってからも、いろんな事を学んで強い女になることを目指していきたいと思います。亡くなった友人の遺族の方からの『この子の分まで幸せな人生をおくってください。』という言葉を大切に生きていきたいです。」

[ p. 107 ]

参考資料

梶山寿子 (1999) 『女を殴る男たち―DVは犯罪である』 文芸春秋刊

鈴木隆文・石川結貴(1999)『誰にも言えない夫の暴力 ドメスティック・バイオレンス』星雲社

DV国際比較研究会編(2000)『夫・恋人からの暴力 国境のない問題・日本と各国の取り組み』 教育史料出版会

ダットン&ゴラント 中村正 訳 (2001)『バタラーの心理学』作品社

中村 正(2001)『ドメスティック・バイオレンスと家族の病理』作品社

日本DV防止・情報センター(1999)『ドメスティック・バイオレンスへの視点』朱鷺書房

日本弁護士連合会 (1998) 『家族・暴力・虐待の構図』 読売新聞社

山口のり子 (2001) 『DV あなた自身を抱きしめて―アメリカの被害者・加害者プログラム』梨の木舎内閣府の男女共同参画局www.gender.go.jp

Bennett, L. & Williams, O. (1999). Men who batter. In R. Hampton et al. (Eds.) Family Violence: Prevention and Treatment (2nd Edition, pp. 227-259). Thousand Oaks CA: Sage Publications Inc.

TFNet japan.「DV防止法って何? ―アメリカのDV防止法」http://www.tfnetjapan.org/backissue/oldsite/whats_dvlaw.html.

Sonkin, D. J. and M. Durphy. (1989). Learning to live without violence. Volcano, CA: Volcano Press.

Walker, L. E. (1979). The Battered Woman. New York: Harper Colophon Books.

General Laws of Massachusetts - Chapter 209A Advocate Manual Vol. 3 - Boston Medical Center

Domestic Violence Research and Advocacy Project


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